「美しい容貌もひとどきのことだというなら、そのひとときに永遠なる思いをこめて、その美しさが実体なのだ、空なのであるものかと、狂うようにめでている時が、生き身のありがたさだと感じる、といったら、菩薩はもちろんお叱りになろう......」。
人間はなぜ瑣事に悩み、色に惑うのか。悩み惑い続けながら、なぜ「生」に執着し「色」に執着するのか。自ら煩悩の熱い炎に焼かれ身悶えしながら、なお人間の真実に迫ろうとする水上勉が、一筋の光明を求め、「心経」を一休和尚に問い、正眼(しょうげん)国師に質(ただ)す。その苦悩の果ての悟りとは----。
一千数百年にわたって読みつがれ、唱え続けられて来た日本人の心の原点「般若心経」が最高の語り手を得て現代に甦る。